TH2SS
∫(インテグラル)

ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン
「うっ……ん」
呼び鈴の音に起こされ、貴明は階下へと向かった。
この元気いっぱい遠慮無しの呼び鈴連打をするような知り合いは一人しか思い当たらない。 河野貴明の隣に住んでいる柚原家の一人娘、柚原このみだ。
「このみ?」
ドアを少しだけ開けて、ちらと相手を見る。予想通り、そこにはこのみがいた。
「あっ、タカくん。おはよ〜」
貴明を見て笑顔いっぱいになるこのみ。
えへ〜と力の抜けたように笑って半開きにしたドアを開けて中に入って来た。それがいつものことだから、 貴明は別段驚く訳でもなくこのみを中に招き入れる。
貴明とこのみはそんな関係だ。
「おじゃましま〜す」
ひょっと靴を脱いで、ピョンと軽くジャンプ。タッとフローリングに着地すると、またえへ〜と笑った。
「今日は機嫌がいいな」
このみがいつも以上に上機嫌なのを感じて貴明は笑いながら言った。
「そうなのでありますよ〜」
そう言いながら、このみはくるりとその場で一回りする。
「えへ〜」
もう一回転する。
「まあいいや、直ぐに着替えてくるから待ってて」
「了解であります」
このみは額に右手をあてて敬礼のまね事をする。また上機嫌に笑い、ペタペタとリビングに向かって歩き出した。
貴明はこのみがリビングに向かうのを見届けると、二階にある自分の部屋へと歩き始める。


このみがリビングで待っていると、直ぐにトントンと軽やかに階段を降りてくる音がした。
リビングの扉が開いて、貴明が入って来る。
「タカくん、おそいよ」
このみは少し怒った様子で、貴明を見る。待ちくたびれていたようで、貴明が入ってくるなり貴明の腕に絡みついた。
「これでも急いだんだけど」
実際、このみが来てからそう長くは待たせていないので貴明は事実を言っている。怒られるいわれはない。
「む〜、でも遅いんだよ!」
上目遣いで逆切れ気味にこのみが言う。
「悪かった、悪かった。それで、今日は何かあったの? 休みの日にこのみがこんなに早起きするなんて珍しい」
貴明は壁にかかった時計を見る。今日は日曜日で、時間は朝の七時半。いつものこのみなら未だぐっすり眠っているはずの時間だ。
「タカくん、このみを馬鹿にしてるでしょ」
「してない、してない。で、今日は何かあったっけ? どこか行く約束してたとか」
「約束? してないよ−−えっとね、」
このみは貴明から離れて窓の前に立つ。
「じゃーん」
窓の外の風景を指して、このみはポーズをとった。
「雪だよ、タカくん! 雪が積もったんだよ」
「あぁ、なるほど」
雪は前日から一日中降り続いていた。ニュースによれば前日の雪は数年ぶりの大雪で、 このみはまるで小犬のようにはしゃいでいた。
「こんなに積もったのは初めて見た気がするよ〜」
窓越しに外を見て嬉しそうにこのみが言う。何か呟く度に窓が白く雲るのが貴明には少し面白かった。
「タカくんもそう思うよね?」
窓の外から貴明へと視線を移して、このみは笑顔いっぱいに聞いてきた。
「うん、こんなに積もるのは珍しい」
「そうだよね!」
このみは嬉しそうにコクコクと頷くと、また外を眺めた。
このみがしばらく嬉しそうに独り言を呟くのを、貴明は眺めていた。
「あっ、こんなことしてる場合じゃなかったんだ!」
このみは何か思い出したらしく、バッと貴明へと体を向ける。
「タカくん、おかあさんが家の前の雪掻きして欲しいんだって。駄目かな?」
「いいよ」
「タカくん、ありがとう!」
このみの母親春夏に海外出張で親がいない貴明はお世話になりっぱなしだ。 そういう理由から貴明が断ることはないのだが、それでもホッとした様子でこのみが喜ぶ。
「でもその前に朝ごはん食べていいかな」
貴明の腹の虫はさっきからなりっぱなしだった。この状態で雪掻きをする元気は出てこない。
「朝ごはん?このみも食べる」
「食べてないの?」
貴明が聞くとどうしてそんなことを聞かれるのかわからず、このみは首を傾げる。
「食べたよ」
さも当たり前のことのようにこのみは言った。
「ごはんでしょ、みそ汁でしょ、あと納豆でしょ……えっとそれから……」
このみは指を折りながら健康的な朝食メニューを披露していく。
貴明はキッチンへ向かい、笑いながら「トースト、何枚食べる?」とこのみに尋ねる。
左手の人差し指と中指を立てて「二枚」とこのみは答えた。全く、これでどうして太らないんだろう か。
貴明は食パンを三枚、トースターに入れた。
カップに牛乳を注ぎ、一つをこのみに渡す。
「ありがと」
このみはそれをとって口をつける。
「このみの家のと違う牛乳だ」
このみはカップを持ったままポツリと呟く。
「わかるの?」
「うん。こう、舌のうえでふわーって広がって ふわーって消えるのがこのみの家の牛乳で、タカくん家の牛乳はサッと広がってサッと消えていく感じ」
「よくわからないな」
貴明は吟味するように牛乳を口に含んでみたがイマイチ違いがわからなかった。
「へへ〜」
何故か嬉しそうにこのみは笑った。
チンという歯切れのいい音が、キッチンからした。
このみはトーストを皿に乗せて持っていく。貴明は冷蔵庫からマーガリンとこのみの母、 春夏から貰った不思議な味がするジャムとスーパーで普通に売っているイチゴジャムを持って行く。
「タカくんそのジャム使ってるんだ……」
やや引き気味な様子でこのみは貴明が持ってきたジャムを見る。
このみの母親から貰ったジャムなのだからこのみの家にもある。だが、こ のみはこのジャムがどうしても苦手らしい。このみは迷わずイチゴジャムを取る。
「このみ、このジャムだけは駄目だな」
「うん」
何かに怯えるようにこのみは頷いた。
「このジャム、春夏さんが作ってるわけじゃないんだろ?」
「うん、なんか北の方に住んでる人に送ってもらってるんだって」
「北って、なんか曖昧だなぁ」
貴明はトーストにマーガリンを塗って、その上に問題のジャムを塗る。
「いただきます」
貴明がパンを食べる様子を心配そうにこのみが見ている。口に入れる直前には何か言いたいのか口を開けていた。
このジャムが何から作られているのか、貴明は春夏に尋ねてみた ことがある。しかし、春夏も知らないらしい。味も味で何ともつかない不思議な味がする。謎尽くしのジャムだ。
トースト一枚など程なくして食べ終わってしまう。後片付けはこのみが引き受けてくれたので貴明はその様子を見ていた。
洗い物もほとんど無い為、簡単に済む。
「終わったよ」
タオルで手を拭いて、このみはソファーに座っている貴明に言った。
「じゃあ、雪掻き用のスコップ探してくるから少し待ってて」
「あ、このみも行く」
二階にある物置部屋に行く為に階段を昇る。このみは貴明の後ろをひょこひょことついて歩く。
物置部屋は普段から開ける部屋ではないため埃っぽい。
雪掻き用のスコップは物置部屋の奥にあった。それを引っ張り出し、部屋を出る。
「あれ?このみ……」
部屋の前にさっきまでいたこのみがいなかった。
「このみ〜」
階段を降りた音はしなかったのでこのみ二階にいるはずだ。貴明はとりあえず呼んでみる。
「タカくん呼んだ〜?」
このみはひょっこりと貴明の部屋から顔を出した。
「なにしてんだよ」
「秘密でありますよ〜」
このみは意地悪く笑う。
「ちょっと、待てって。あまり漁るな!」
「えへへ〜」
意味ありげな笑いを浮かべてこのみはまた貴明の部屋に入っていく。
このみは何が目的なのかはわからないが篭城を決めていた。部屋の鍵も閉められていて入れない。
「開けろって、な?」
何度もドアを叩いたが、「ちょっと待ってて〜」というのんびりした声が返ってくるばかりだ。 たまに「えへ〜」という笑い声が中から聞こえてくるところを見ると、なにやらこのみは満足気らしい。
暫く待ってみたが、このみが出てくる様子がない。
「このみ、先に出るからな」
「ま、待って、たかくん。あと少しで終わるから!−−−あっ」
その声と同時に部屋の中から大きな音がした。このみが何かを倒したのかも知れないと貴明は心配になる。
「このみ、怪我してないか」
「だ、大丈夫だよ。心配しなくていいから」
言葉も早口になっていて、貴明はこのみの焦っている様子がありありとわかった。
「待ってるから、落ち着いて、な」
貴明は諭すようにこのみに話しかける。こういった時にこれ以上このみを慌てさせるとろくな事が無いことを貴明は知っていた。
「うん、絶対だよ」
やり取りがあってから直ぐ、このみは部屋から出て来た。何やら満足気な顔をしているのが貴明には気になった。
「何してたんだ?」
貴明が聞くとこのみはポケットに右手を置いてごまかすように笑った。
「ほ、ほら、タカくん。早く雪掻きしに行こう?」
そう言って足早に階段を下り、ドアを開けた。
「ほら、早く!」
貴明は一度軽く自分の部屋を覗き、異常がないことを確認するとこのみを追って階段を降りた。 外からはこのみが大声で呼んでいるのが聞こえる。


外には数年ぶりの大雪というに相応しく、辺り一面に雪が積もっている。
「改めて見ると凄いな……」
「ね〜、いっぱい遊べるよ」
貴明の隣で雪掻き用のスコップを持ったこのみが嬉しそうに言った。
「早く終わらせて遊ぼう?」
「終わるかなぁ」
楽しそうなこのみの一方、貴明は一面の雪に辟易した。
「タカくんならできるよ」
このみは貴明に笑顔を向けていった。この笑顔を向けられると、貴明は弱い。
「多分」
「多分ね……」
貴明は物置部屋から持ってきた青いスコップを雪に突き立てる。
スコップとコンクリートが擦れるザッという音を鳴らして雪をすくい上げ、すくい上げた雪を端に寄せて山を作った。
このみの方を見ると、このみも同じように雪を掻いていた。
「このみのスコップ大きくないか?」
このみの雪掻き用の赤いスコップはこのみの身長ぐらいの大きさがある。正直、このみには不相応だ。
「そうかな〜」
このみはザッと雪を掻いてみせる。
「大丈夫だよ」
貴明にはこのみがスコップに使われているようなに見えるのだが、本人がいうのなら大丈夫なのだろう。
確かにこのみは華奢のように見えて不思議な程に力がある。ゲンジ丸の散歩をしていて自然に鍛えられているのかも知れない。
ゲンジ丸というのはこのみが飼っている犬の名前だ。全身がフサフサの毛で覆われた大型犬で、 性格はおっとりしていて酷くめんどくさがりやで大食漢。つまり、変わった犬だ。
「そうそう、聞いてよタカくん。ゲンジ丸ったらね、寒くて小屋から出て来ないんだよ」
このみはつまらなそうに口を尖らせた。
「一緒に遊びたかったなぁ」
溜息をついて、ゆっくりと雪を端に寄せる。
「げんじ丸の大好きな魚肉ソーセージで釣ろうとしたらお母さ んに『最近ただでさえ太りぎみなんだから無闇に餌をあげない! あんたも最近出て来てるんだからタカくんと家の前の雪掻きでもしてらっしゃい』って怒られるし」
「俺はとばっちりを喰らってるわけか」
貴明は苦笑いをしてうなだれているこのみを見た。さっきからあまり手が動いていない。
「早く終わらせて遊ぶんだろ?」
貴明がそう言うと、このみはハッとしたように顔を上げた。
「そうだった」
このみはラストスパートのような勢いで雪を掻き始めた。もちろん、ラストスパートをかけるにはまだ早い。
「そんなんじゃ直ぐに疲れるぞ」
「大丈夫であります!」
貴明の忠告にも耳を貸さず、このみはガシガシと雪を掻いていく。 ペースをあげてからずいぶん経つのに、一向にペースが落ちない。
「相変わらず底無しの体力なんだよな……」
貴明はそんなこのみの様子を見て、手を止めて呟いた。このみも手を止めて貴明を見る。
「タカくん、このみに何か言った?」
「このみは凄いって言ったの」
貴明がそういうと、このみは嬉しそうに「えへ〜」と笑う。
「よし、やるか」
「了解であります」
そんな調子で続けていた甲斐あって、一時間もすると雪は大分寄せられ、歩ける程度にはなった。
掻ききれなかった雪も今日中にはとけてしまうだろう。
「もう、いいかな……」
「うん」
辺りを確認するように見回して貴明が言った。
このみのペースに合わせて一気にやったので貴明の息は少し切れている。
「じゃあ、遊ぼうよ」
微塵も息をきらしていないこのみは、待ってましたとばかりに嬉しそうに提案する。
「いいけど、どこで?」
「このみの家の庭なら雪たくさんあるよ」
今まで散々、雪と格闘していたのにこのみはまだ雪と戯れたいらしい。
「よし、じゃあ行くか」
「うん」
行くと言ってもこのみの家は目と鼻の先だ。
このみの家の玄関先にスコップを置いていく。貴明は改めてこのみのスコップを見る。やっぱり、このみが扱うにはこのみぐらいの 身長の女性が扱うにはこのスコップは大きかった。腕力といい、体力といいあの小さい体の何処にそのパワーが詰まっているのか。
「敵わないなぁ」
貴明は小さく笑った。
「タカくん、早く〜」
庭の方から貴明をせかすこのみの声が聞こえる。
「今行くよ」
貴明は庭に向かって歩いた。

先に行ったこのみは、何個も雪玉を作って待機していた。
そこに貴明が現れる。
「えいっ」
狙いを定めて第一球。綺麗な放物線をゆっくり描いて貴明へと向かう。
「えっ?」
突然のことで貴明は反応できず、ただ声をあげた。
ボス、という音がして貴明の腹に命中する。
「やったあ!」
このみは両手をあげてバンザイをする。
「隙あり!」
貴明は素早く地面から雪を取り、軽く丸めて放った。 貴明の雪玉は真っ直ぐこのみへと向かい、ベシャという音を起ててこのみの胸のあたりに当たる。
「む〜」
さっきの嬉しそうな表情から一転、不満そうな顔付きになる。
「タカくん、酷い」
「先に仕掛けたのはこのみのほう−−−ブッ」
「おかえしでありますよ〜」
しゃべっていた貴明を目掛けてこのみが投げた雪玉が貴明の顔面に当たる。このみは貯めていた雪玉をここぞとばかりに放った。
このみの猛攻を受けながら、貴明は大きな雪玉を一つこしらえていた。
この猛攻は時期に止まる。その時こそ貴明の最大のチャンスだ。
「最後っ」
このみは最後の雪玉を投げる。が、しかしそれは貴明からあさっての方に飛んでいく。
「へっへっへ」
貴明は意地悪く笑い、大きな雪玉を掲げてこのみの真正面に立つ。
「このやろ」
「いたっ」
貴明は雪玉でこのみをぶった。軽く当てただけなのに、雪玉は脆く崩れる。
「ひゃっ」
突然、このみの体が大きくビクッと跳ねた。
「雪入った〜」
パタパタと服を動かして雪を除く。
「タカくん……」
にこりと笑顔を浮かべ、このみは貴明を睨んだ。
「えいっ」
このみは目の前の貴明に向かって飛び掛かった。貴明を下敷きにして、二人は雪の中に倒れた。
「冷たっ」という貴明の声に、このみは満足気に笑った。
貴明も無理矢理立ち上がるようなことはせず、このみと一緒になって笑った。
暫くそうしていると、満足したのかこのみが立ち上がり、スッと手を伸ばす。
「ありがと」
貴明はそれに捕まり立ち上がった。
「雪だるま作ろ?」
「わかった」
「大きいのがいいな〜」
このみは小さな雪玉を作り、それを転がしていく。雪玉にはあっという間に大玉の西瓜のようなサイズになる。
「まだまだ」
一旦形を整え、このみはそれを貴明に渡した。 受け取った雪玉をゴロゴロと転がしていく。たまにこのみがストップをかけて形を整え、丸く大きくしていく。
「こんなもんでいいか?」
雪玉は貴明の股下ぐらいの大きさがある。このみはそれを見て暫く考えた後、頷いた。
「うん、じゃあ今度はこのみが頭作るね」
このみはいつの間にか作っていた西瓜サイズの雪玉をゴロゴロと転がし始めた。
「冷たい〜、タカくんよく冷たくなかったね」
このみは転がすのを中断して、手をブンブンと振った。
「冷たかったよ」
「でも、冷たいって言ってなかった」
「そら、まぁ……」
貴明も男だ。好きな人の前で冷たい冷たいと弱音を言うのは恥ずかしい。
「タカくんの手、暖かい」
突然このみが貴明の手を取る。
「暖かさを充電するでありますよ〜」 このみは両手で貴明の手を包む。普段よりずっと冷たくて、いつも握っている感じと違う感じがした。
「どうしたの?」
このみは貴明を覗き込むように見る。
「あっ、いや……」
悔しくて、握られていない手でこのみの手を包んで、押した。 「えへへ〜」
だが、それはこのみを喜ばすだけで終わる。悔しいからもう少し強く押してみた。それも、このみを余計に喜ばすだけで終わった。
「ねぇ、タカくん、雪だるま出来たら写真撮ろうね」
突然話を振られ、貴明はオウム返しをする。
「写真?」
「うん、写真」
「なんでまた」
「記念に」
「なんの?」
このみは恥ずかしそうに顔を伏せた。どもりながら、このみは言う。
「二人で雪だるま作った記念」
「そんなの、雪が降ればつくってるじゃないか」
雪が降るたび、貴明はこのみが雪だるまを作るのを手伝っている。今年が特別変わった手順を踏まえた訳でもない。
「い、いいの!」
このみはむきになって叫ぶ。貴明の手を払って、大きくなった雪玉を再び転がし始める。
「カメラ、あるの?」
「あるよ。さっきタカくんの部屋撮ってきた」
「それって、俺がスコップ探してた時?」
「うん」
「秘密じゃ無かったのか?」 貴明は余りに素直な暴露に笑った。
「あっ」
貴明が笑ったことでばらしたことに気付いたこのみは悔しそうに貴明を睨む。
「む〜。タカくん、これ乗っけて」
このみは自分の作った雪だるまの頭部を指差し、ぶっきらぼうに言った。
「わかったわかった」
苦笑いしながら貴明は雪だるまの頭部を持ち上げ、 胴体とくっつけた。このみに雪玉をぶつけた時に簡単に雪玉が崩れたことを考えて慎重に乗せていく。
「出来た」
頭は無事に乗った。
貴明は辺りを見遣る。しかし、このみがいない。雪だるまの頭部に集中がいってしまい、このみが消えたことに気付かなかった。
「あれ?」
あれぐらいでヘソを曲げて家に引きこもるこのみではないはずだ。不思議に思い、もう一度庭を見る。
しかし、いない。
引きこもるはずはない。そのはずだ。
でも、気になる。
貴明は玄関へと向かった。もし怒っているなら謝らないといけない。悪気は無かったと。
ガチャ
貴明が玄関口に着くと、このみがバケツやほうきを持って出て来た。雪だるまの手にするつもりだろう。
「あれ?タカくん、どうしたの?」
てっきり貴明は庭で待っているものだと思っていたこのみは玄関口にいる貴明に向かって素直に疑問をぶつけた。
その素直な質問が痛い。まさかこのみを追い掛けて来たとは恥ずかしくて言えない。
「あ、あっと……行こうか?」
強引にごまかすことにした。が、それは逆効果だった。あまりにしつこいので、貴明は素直に白状する。
するとこのみは笑うことなく、貴明の手を引いて歩き出した。
「い、行こう、タカくん」
「あ、あぁ」
貴明は生返事を返す。 「タカくん、あのね、また作ろうね」
「雪だるま?」
「うん」
次、雪だるまを作った時もこのみは『また作ろう』というだろう。 そして『また』が積み重なって、雪みたいにどんどん積もって、『ずっと』になっていくのだろう。これまでと同じように。
そんなことを感じて、貴明は笑った。
今考えたことをこのみに言う。
「うん」
このみは頷いた。
今年は何枚雪だるまの写真を撮るのだろうか。



更新途絶えてました。前回もコノ始まり方です。ごめんなさい
とりあえず、前回の予告を裏切ってTH2から柚原このみです。ブログのほうにもありますが、ようやっと一人クリア! みたいな?
雪が降ってからちょうど1週間。人間やれば書けるものです。えぇ。
次回は同じくTH2から向坂環、通称「たま姉」になること請け合いです。
まだクリアしてないんですが……よろしくお願いします。テスト挟むから……二月中旬?

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